#リアクションシューティングガール #フェディバーシティ・コネクション $[font.serif 寒い夜に、身を寄せ合う仲間がいること]
今季随一の寒気団が押し寄せて、Misskey.ioのサーバーの街にも冬の一層冷え込んだ空気が吹き荒んだ。ローカルタイムラインの表通りを飛び交うリアクションも、抱きしめ合ったりお茶を差し出すカスタム絵文字が増えて、車道を駆けていくノート投稿のホログラムには鍋料理の飯テロ画像が押し寄せていた。
そんな表通りを横目に、3人の少女が夕方の路地裏に入っていく。裏道を入った先にあるカラオケボックスは、.ioの歌好きだけにとどまらず「安価に借りれる個室」として多くの人が「逃げ込む」場所だった。
ビッグスクリーンの部屋を案内された3人の少女たちは、寒さにかじかむ体をさすりながら、エレベーターを降りて突き当たりの部屋に入ると、手荷物をソファの上に放った。
「寒ーい! ボンちゃん脚寒くないの?」
ピンク髪にツインテールの「雑賀朔」──通称「リアクションシューティングガール」──がエアコンのリモコンをつかむ。
「めちゃくちゃ寒い。でもオシャレは我慢だし」
ボンちゃん、と呼ばれた銀髪に褐色肌の「凡百」──「エモジクッキングガール」とも呼ばれるMFMアーティスト──はそう答えて、絵文字のパターンが散りばめられたイエローが鮮やかなポンチョを脱いでソファに畳んで置いた。
雑賀朔が部屋の温度を上げながらファーコートをハンガーにかけて地雷系の装いを見せ、凡百がポンチョに合わせたデザインの絵文字だらけのアグリーセーター姿になるのを眺めながら、既にインバネスコートを脱いでツイードのワンピース姿になった「ツキレイ」──アカウント名「月が綺麗と言え」、またの名を「リプライシャウトガール」──が内線の受話器に手をかけて、二人に訊く。
「なに歌う? てかまずあったかいドリンク頼む?」
「わたしホットコーヒー」
雑賀朔が言って、凡百が続く。
「あ、ホットココアで」
二人の返事にうなずいた後、ツキレイは受話器を取ってフロントに言った。
「すいません、コーヒーとココアとダージリン、ぜんぶホットで一つずつお願いします」
注文が済んで、ツキレイは既にソファでまったりしている雑賀朔と凡百の並びに座った。
テーブルに対してずいぶん広い部屋は明らかに3人では持て余す広さだった。大型スクリーンではMisskeyのAI看板娘「藍ちゃん」が映し出され、アイドル衣装で手を振りながら「皆さんこんにちは!」と満面の笑顔で新しい楽曲の紹介を始める。
「なんか、歌う?」
そう言いながら、ツキレイはソファに据えてあったにゃんぷっぷー型のクッションを抱き寄せる。
「歌もいいんだけど」
雑賀朔は首を傾げながら言うと、凡百に向き直って訊く。
「ぎゅってしてい?」
雑賀朔の真っ直ぐな眼差しを受けて、凡百は柔らかく微笑む。
「どうぞどうぞ」
凡百が両腕を開いて胸を張ってみせると、ツキレイもぐっと二人に体を寄せて言う。
「あ、ずるい、わたしも」
「みんなでみんなで」
凡百はそう応えて、雑賀朔とツキレイを二人とも抱き寄せた。
三人とも冷たい頬を合わせて、ゆっくりと打ち寄せる互いの呼吸を耳元で感じとる。目をつぶって不揃いな鼓動を数えていると、体の芯から温かな血が新しく湧き出てくるような気さえする。それは確かに存在する記憶、互いが互いの体温と心音とで、懐かしい赤ん坊の頃の心地を思い出しているのだった。
「この前さ、リアクション誤射しちゃってさ、ちょっとへこんでたんだ」
三人でまとまるように抱き合ったまま、雑賀朔が小声で呟く。
「あるある、よくあるじゃん」
凡百が頬寄せたまま首を振り、雑賀朔もうなずく。
「うん」
するとツキレイが、引き寄せるように二人に顔を埋めて、言う。
「わたしもね、この前すきな絵師さんにリプライ送ったら、ちょっとぎこちない感じになっちゃった」
「でもブロミュされたわけじゃないんでしょ?」
凡百がそう訊くと、やはりツキレイもすがるようにうなずく。
「うん」
そうしてしばらく三人で抱き合ったまま、大型スクリーンでは餅付ぬるぽの新曲のPVが流れて、エアコンがようやく暖かい風を吐き始めたころ、雑賀朔が言った。
「いつもボンちゃんに受け止めてもらってばっかりだね。なんか、聞くよたまには。ボンちゃんの、悩み? 弱音? とか」
「そうだよ、遠慮なく言って」
ツキレイがそう続くと、凡百は唇をすぼめて、言う。
「そうだねえ」
一呼吸のあと、凡百は二人をしっかりと抱き寄せたまま続けた。
「クラスの好きな男の子が色白の女の子が好きらしくて。結構泣いちゃったんだ、昨日」
その言葉に、雑賀朔もツキレイはしばらく黙ってから、凡百の手のひらや頬や首筋の、褐色の肌を撫でてみせた。二人の手の慈悲を受け止めて、凡百はすこし、震えた。
「わたしは好きだよ」
雑賀朔の言葉に、ツキレイも唇を震わせて言う。
「わたしも好き」
凡百は黙ってうなずいたあと、頬を撫ぜる二人の手に自分の手を添えて握った。
「あったかい、朔ちゃんもツキレイちゃんもあったかくて、優しい」
その言葉に、雑賀朔もツキレイも微笑んで、凡百の頬を揉みはじめる。
「ボンちゃんもちもち」
「もちもち、きもちいいね」
二人のおふざけに凡百は笑って応える。
「もう、大好きになっちゃうよ」
「いいじゃん、大好きになっちゃえよ」
雑賀朔に言われて、凡百が潤んだ瞳で返す。
「もうなってる、いまなった──キスしてい?」
その問いに面食らいながらも、雑賀朔は微笑みを崩さない。
「え? ……んー、どうなっちゃうのかな」
そこにツキレイが入って言う。
「わたしもしたいよ、みんなでしようよ」
そして、3人して人生みたいな真剣な沈黙に包まれ、夢の中のように時間の感覚が狂い、三つの唇が作る三角形が徐々に小さく、近づいて行って──
コンコンコン! とドアがノックされた途端に、3人は素早く離れてソファに並んで座り、姿勢を正した。
「失礼しまーすお飲み物お持ちしましたー終了10分前にまた内線でお電話しまーす」
部屋に入ってきたカラオケボックスの店員はドリンクをトレーからテーブルに置いた後、3人に見向きもしないで部屋を去った。
スクリーンに流れる餅付ぬるぽのPVが終わって、再び藍ちゃんのトークが始まったところで、3人は誰からともなく爆笑して、ドリンクを手に取った。
「よしじゃあまず乾杯しよ!」
「だね! 私の失恋記念だね!」
「違うよ、新しい恋のスタートを記念してだよ!」
雑賀朔が、凡百が、ツキレイがそれぞれに声を張って、3人の手にしたカップが軽快な音で鳴りあったのだった。
「カンパーイ!」
Misskey.ioの街の夜が更けていくとともに、ローカルタイムラインの表通りを駆けていく風はいっそう冷えていき、夜の碧色が重苦しい曇り空から、いまにも雪さえ降りそうで──それでも、Misskeyにいる人々には魂の体温を確かめ合う仲間がいる。そうやってまた、今年も来年も次の冬も、ミス廃たちは手を取り合っていくのだった。
#MisskeyWorld

